「ゼベリアの兵力は確かに強大です。最初から正攻法で攻略できるとは思っていません。だからこそ、我々には下準備が必要だった」
「下準備?」
ノルベルトは仔細ありげに顎を撫で付ける。
「今のゼベリアではカナルディアに勝てません」
「大した自信だな」
「根拠がある上でのね。知りたければ教えて差し上げますが」
ふと余裕を砕きたい思いに駆られて、リオンは鎌を掛けた。
「路線爆破か」
「なるほど。調査済みというわけですか」
「西の監察所を数名の魔術師が連日にわたり、頻繁に越境しているとの記録があった。爆破跡には魔術痕も残っていたそうだから、可能性が高いと見ていたけど……。目的は、戦の準備をしている自分達から目を逸らさせるためというところか」
たかがそれだけのことで、と再び笑い飛ばそうとしたが、言葉は途中で喉を逆行した。
己の浅慮を呪いたくなる。
肝心なことに、どうして今まで気が付かなかったのか。
「度重なる路線爆破によって、城の警備兵の多くが各地域に派遣されているそうですね。さて、今ゼベリアの城に残っているの兵はいかほどのものか……リオン王子。もう一度お聞きしましょう。我々と共に勝者となる気はありませんか?」
全く自分に腹が立つ。
苛立ち紛れに床を踏み鳴らして、リオンは言った。
「………侮るなよ。お前みたいな考えの甘い奴の罠に嵌るほど、マヌケじゃない」
「罠?」
ノルベルトは一瞬、眉を寄せたが、やがて相手の言わんとするところを理解したというように手を打った。
「我々があなたを罠にかけようとしているということですか? それなら疑うのも無理ありませんが……」
「そうじゃない」
ゆっくりと頭を振った。
「たかがそれだけのことで、ゼベリアがお前たちみたいな考えの甘い奴に負けるとは思えないって言ってるんだ」
「つまり、あくまでこの申し出を受け入れる気はないと?」
「はなっから、そう言ってんだろ」
「それは残念です………」
シュゼットが剣の柄に手を添える。
リオンは背後にしていた扉から素早く離れた。続いて、勢い任せに開け放たれた扉から、抜き身の剣を構えた兵士がなだれこんでくる。指示を求めて向けられた視線に、ノルベルトが応えた。
「可能な限り生かして捕えるように」
上段から斬り込みを仕掛けてきた刃を懐剣で弾き、体勢を崩したところで、顔面に掌底を叩き込む。敵は周囲を巻き込みながら、派手に転んだ。難を逃れた兵士達は警戒を強めて、リオンから距離をとった。一歩退いたリオンの背に壁が当たる。
「クソッ! 圧倒的にこっちが不利じゃねーか!!」
部屋の反対側でノルベルトが肩をすくめた。
「口先だけでも我々に協力すると言っていれば、隙をみて逃げ出すこともできたでしょうに」
「たとえ偽りであっても、それを言った時点でオレは死んでたよ」
比喩ではなく現実に。
国にとっての災いの種を始末すること。それが彼の仕事だ。
いつでも動きがとれるように扉の脇を陣取っていたが、窓際にすべきだったと今更ながらに後悔した。外はまだ暗くてよくわからないが、ガラスに木の影が写っている。庭だろうか。
視界の隅で鋼の輝きを捉え、リオンは注意を引き戻した。
不意の油断を狙って突き込まれた剣から身を捩って逃れ、リオンは頬を引き攣らせた。
ノルベルトは生かして捕えるようにと命じたが、可能な限りという条件付きだ。内部情報を掴まれた上で逃げられるくらいなら、殺してしまった方がましということだろう。
それこそ抵抗を続けて、この場で殺されてしまうよりは、大人しく捕まった方が、ノルベルトの言うようにチャンスもあるかもしれない。
リオンがそんなことを考えかけた時だった。
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